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探偵小説が書きたいの2

或る海岸の崖の上の別荘に百万長者の未亡人と、その娘が住んでいた。二人ともなかなかの美人であったが、娘の方がイツモ何者かに生命 いのち を狙われて殺されそうになるのを、そのたんびに或る青年名探偵が現われて救い救いしてくれた。  未亡人と娘は名探偵に満腔 まんこう の感謝を捧げた。娘と名探偵とはとうとう恋仲にまでなったが、
しかし、それでも娘の生命 いのち を狙っている悪人の正体ばかりは、どうしても掴めなかった。流石 さすが の青年名探偵が、いつも危機一髪で喰い止めるほどの神変とも、不可思議とも説明の出来ない怪手腕を以て、根気強く娘の生命 いのち を脅やかし続けるのであった。  ところがその娘が或る日、崖の縁端 ふち を散歩しているうちに突然に強い力で突落された。落ちる途中で一回転した拍子に、崖の上から並んで覗いている青年探偵と母親のニューバランス996、揃いも揃った冷酷なニコニコ顔が見えた。
 それからその娘の頭が、崖の下の岩角に触れる迄の何秒かの間に、今までの一切の不可思議がグングン氷解して行った。その何秒かの間の彼女の回想の高速フィルムの全回転が、そっくりそのまま驚愕と、恐怖に満ち満ちた長篇小説として書けないものであろうか。  傴僂 せむし の隠亡 おんぼう が居る。  人跡稀な山奥の火葬場で人を焼く序 ついで に、棺桶を発 ひら いて目ぼしいものを奪い取る。中には棺の中で蘇生している人間も居るが、そんな人間は介抱して正気付かせて、生前の秘密をスッカリ喋舌 しゃべ らせてから又撲殺して焼いてしまう。そうしてその死人の遺族を脅迫して金を奪い取り、巨万の富を重ねる。
 そのうちに美しい令嬢の失恋自殺屍体が生き返っているのを発見して自分の妻にしてしまう。隠亡をやめて遠国に住んで、美しい妻と共に一生を楽しく暮す。  その思い出話といったようなニューバランス1400ものが、一千一夜式に書けないものだろうか……。  何かと書いて来るうちに、お約束の六枚になった。ところで読返してみると、これが即ち探偵小説と申上げ得るものはタダの一つもない。みんな大人のお伽話 とぎばなし みたいな心理描写ばっかりである。  ……ハテナ……。  俺は一体、何を書きたがっているのだろう。
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