東京?銀座に登場した何の変哲もないこの狭小ビル。これが、都市部におけるビル建築の流れを変える一石となるかもしれない。実は、都内では初めてとなる5階建ての「木造ビル」なのだ。
施工したのは三井ホーム <1868> 。ツーバイフォー(2×4)工法で建てられた木造の5階建てビルは国内でも2棟目だという。国土交通省所管の木造建築技術先導事業にも採択されている。 ビルの1階には喫茶店が入り、2~3階が訪問介護を受けている高齢者用の高級賃貸住宅、4~5階がスタッフルームとなる。やや勾配のきつい階段を登ると、居室の玄関が目の前に現れる。1フロアの面積は40平方メートル強で決して広いとは言えないが、鉄骨建築にありがちな圧迫感もない。
■ 足場が不要の独自工法
三井ホームが力を入れる木造ビルの大きな特徴は、都心の狭小地でも、敷地面積を最大限有効に使える点にある。
一般的な鉄骨構造のビル建築では、職人が作業するための足場が欠かせない。そこで、今回のビルでは、三井ホームは独自に開発した「外壁建て起こし」システムを採用した。これは建築途中の床上で職人が壁面を作り、ジャッキで建て起こす仕組みだ。
足場を確保する必要がなくなるため、ビルが密集する都市部でも敷地境界のギリギリまで建てられるようになった。現場で壁面を作るため、クレーンを使う必要がなく、大型車両が入れない場所でも施工できる。
また、鉄骨構造だと部屋の角にハリや柱が出てしまうが、壁と床で建物全体を支える2×4工法で建てられているために妙な出っ張りはない。さらに有効面積を稼ぐため、エレベーターは設置せず、階段部分にいす型の昇降機を取り付けた。
今回のビルは今年2月に着工し、11月に完成した。鉄骨だと、コンクリートが固まるまで保護する手間などもあり、最低でもこれより1カ月は工期が長引いたという。総工費も1億2000万円と、鉄骨構造で建てるより2~3割コストを抑えられた。
三井ホームの五井尚人?東京東支店長は「東名阪の都市圏で、容積率の高いビル密集地域がターゲット。引き合いは強い」と、国内での市場開拓に手応えを示す。
木造ビルは、欧米ではすでに一般的だ。2×4の本場であるカナダでは、ホテルや商業施設など5~6階建ての中層建築で木造が採用されている。スウェーデンのストックホルムでは、34階建ての木造超高層ビルの建設案まで浮上している。
■ 日本で高層ビルは難しい
ただ、日本での普及には課題がある。コストとの折り合いだ。
現行の建築基準法では、1時間の耐火性能を備えていれば最上階から4層以内の木造建築が認められている。したがって、今回の銀座の物件も、正確には木造とRC(鉄筋コンクリート)のハイブリッド建築(1階のみRC、2~5階が木造)だ。RCの階数を増やせば6階建て以上のビルも建てられるが、そうなるとコストメリットは薄れてしまう。
こうした事情もあり、「今のやり方だと5階建てがベスト」(五井支店長)。とはいえ、ビルの高層化が進む都心部において、5階建てではどうしても見劣りしてしまう。普及を拡大させるためには、木造ならではのデザインなど、鉄骨構造のビルにはない付加価値を生み出すことが必要になりそうだ。
PR