■職員と知恵比べ
そんな雄のシンボルの角も、奈良公園では「人との共生」のため切り落とされる運命にある。毎年秋になると、愛護会の職員たちが奈良公園をパトロール。ドングリなどの飼料をまいて雄をおびき寄せ、麻酔をして捕獲する。
しかし、角は雌を引きつけるシンボルだけに、雄たちは切り落とされるのを避けようと必死に抵抗する。雄の側も角を切り落とされることに気付いており、職員と鹿との間で知恵比べも繰り広げられる。
職員の服装や車を覚えている勘のいい雄は、職員が近づこうとすると、たちまち全速力で逃げる。しかし、鹿は本来、舌で体温調節し、長く走り続けるのが苦手で、結局は捕まってしまうのだが…。
■角を切られても…
職員に捕獲され、立派な角を切り落とされた雄は、心持ちしょんぼりした様子を見せる。それでも、雌を引きつける努力は続ける。角をなく
ニューバランス スニーカーした代わりに、“香水”として泥や自分の尿を体に塗り、アピールするのだ。
「ヌタ場」と呼ばれる奈良公園内の「雪消沢(ゆきげのさわ)」周辺では、しばしば泥を頭などにこすりつける姿が目撃される。泥が乾いて臭いが薄まると、また塗りにいく。
ほかにも「三連声(さんれんじょう)」と呼ばれる行動がみられる。3回続けて「ピュー、ピュー、ピュー」と鳴き声を出し、雌を呼ぶもので、3回続けて鳴くことができると一人前という。愛護会の職員は「雌を呼んでいるのか、縄張りをアピールしているのか、秋の時期だけ聞かれるもの悲しい響き」と話す。
ハーレムの形成に成功した雄は、好物の鹿せんべいなどに目もくれず、文字通り食べる間も惜しんで昼夜を問わず、雌たちの見張りを続ける。この命がけの努力のため、夏に80~90キロほどあった体重は秋以降、20~30キロほど減るという。「人間だけでなく鹿の世界も大変。新しい命を誕生させるために頑張っている」(愛護会)のだ
■伝説の雄鹿「ヌシ」
鹿は一般的に群れで行動するが、約3年前に死ぬまで“一匹狼”のように単独行動を続け、その立派な風貌から「ヌシ」と呼ばれた伝説の雄がいた。体重が110キロほどもある立派な体格。立派な角と貫禄ある風貌を備え、どっしりと歩く姿が印象的だった。
晩年は、奈良公園の西側に延びるメーン
ニューバランス レディースストリート?三条通にある開化天皇陵を“住みか”とした。このヌシも、秋の発情期になると、住みかを離れ、奈良公園に姿をみせた。
他の雄のように、特に雌を追いかけることもなかったが、奈良公園に落ち着いた様子で座り、あたりを見回していた。愛護会も「ヌシは変わった鹿だった。秋になると奈良公園に姿をみせ、時期が終わると、また三条通に戻っていた」と振り返る。
■小鹿思いの一面も
雄が形成したハーレムは、雌が妊娠すると自然に解消される。愛護会の獣医師、吉岡豊さんは「鹿の雄は基本的に子育てをしない。人間社会では“イクメン”が増えつつあるが、鹿の雌は大変」と話す。
ただ、雄たちには小鹿思いの一面もある。雄同士が餌を奪い合うシーンは頻繁にみかけるが、一方で、小鹿が餌を食べにきたら追い払わず、先に食べさせることもある。
さまざまな顔をみせる雄たち。特徴的な雄の鳴き声は、江戸時代の俳諧師、松尾芭蕉の句にも詠まれている。
びいと啼く尻声悲し夜の鹿
その奥深い姿は、古くから人々の目にも止まっていたようだ
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