ランニングやサイクリングを楽しむ市民が行き交う大阪府富田林市の河川敷。大阪府警の捜査員が連日、泥にまみれながら地面を掘り返した「現場」とは思えないほど、のどかな光景が広がる。住民登録上は10歳だった男児が生後まもなく行方不明になっていた事件。後に全国で「居所不明児童」の問題が浮上するきっかけとなったが、河川敷に埋められたとされる男児は見つからず、遺体の遺棄を認めた祖母らは公訴時効で不起訴に。「真相」は闇に閉ざされ、後味の悪さだけが残った。
■履歴に疑義、捜査開始
「男児とは同居していない。住民票から外してほしい」。平成23年8月、富田林市役所が男児分の国民健康保険料の納付を求めた際、曽祖母がこう打ち明けたことで、奇妙な事件は幕を開けた。
男児は14年9月に同市で出生。同12月に同府太子町に転出したが、16年5月に父親とともに同市に戻り、同年9月からは同市内で曽祖母と2
ニューバランス スニーカー人で暮らしているとされていた。しかし、こうした履歴に疑義が生じたのだ。
同市が本格調査を始めると、男児の実母は「生後1カ月半で父方の祖母が連れて行った。それっきり会っていない」と証言し、一方の祖母は「知らない」と釈明した。
ではいったい、男児はどこにいるというのか。同市は、男児が事件に巻き込まれた疑いがあるとして府警に相談し、捜査が開始された。
■河川敷捜索 手がかり見つからず
男児は生後まもないころに行方不明になった可能性が高かった。10年近くが経過していることになり、捜査は難航、しばらくは膠着(こうちゃく)状態が続いた。
事態が動いたのは昨年4月以降。府警は生活保護を不正受給したとする詐欺容疑で祖母ら男児の親族4人を逮捕したが、その後の捜査で、男児の行方不明について「15年2月に埋めた」との供述が得られたのだ。
このため府警は昨年7月、同市を流れる石川の河川敷で捜索を開始。親族が示した場所を中心に捜査員が重機やシャベルを使って掘り返していった。
しかし、何も見つからなかった。捜索範囲はどんどん拡大していった。骨片が発見され、現場が沸き立つこともあったが、鑑定に回すと、動物の骨という結果が回ってくることもあった。
現場が府道沿いということもあって
ニューバランス レディース捜索は観衆にさらされた。「遺体を探しているらしいよ」「行方不明の男の子らしい」。捜査員の様子はスマートフォンで撮影され、ツイッターなどに投稿された。
現場にも重苦しい雰囲気が漂い、捜査幹部の焦りは募るばかり。しかし、手がかりすら見つからなかった。そして今年5月、捜索を打ち切り。10カ月で約490平方メートルを掘り返した末のことだった。
■「殺人容疑は難しい」
府警は祖母ら親族4人を死体遺棄容疑で書類送検したが、男児を遺棄したとされる15年2月からはすでに公訴時効の3年が経過しており、今年8月、同罪は不起訴処分となった。
男児に対する殺人罪が成立する可能性も残されてはいる。しかし、遺体は見つからず、祖母らも「男児は朝起きたら死んでいた。顔の近くにキャットフードがあった」などと殺害については否認。捜査関係者は「殺人容疑で立件するのは難しい」と吐露している。 しかし、なぜ、ここまでの事態になるまで行政は異変に気付けなかったのか。実は、異変の兆候をつかむきっかけはこれまでに何度もあったが、すべて見落とされてしまっていた。
一度目は男児の住民票が太子町に登録されているときだ。
男児は4カ月と1歳6カ月の乳幼児健診を受けておらず、不審に思った同町の保健師が家庭訪問に訪れていた。同町では健診を受けない児童はまれなための措置だったが、結局、保健師は男児に会えずじまいだったという。
一方で、男児の家族からの申請で児童手当は支払われていた。疑念が生じてもおかしくはない状況だったが、結果的に最初の安否確認の機会は生かされなかった。
次の機会は男児の小学校入学時に訪れた。
男児は書類上は富田林市にいることになっていたので、21年4月に同市の小学校に入学する予定で、その前年、就学前健康診断や入学説明会などのスケジュールが予定されていた。
しかし、今となれば当然なのだが、男児やその家族が会場に姿を現すことはなかった。教頭が自宅を訪問しても男児と接触することはできなかったという。
“失態”はその後も続いた。
市側の求めに応じて曽祖母が同年3月、市役所を訪れたことがあった。曽祖母は男児の消息について「どこかの施設にいると(男児の)父親から聞いている」と説明。ところが、同市が施設についての確認作業を行うことはなかった。
当然、男児が学校に通うことはなく、翌22年、教育委員会が作成する児童の名簿「学齢簿」から男児は除籍された。誰もが、全てをうやむやのままにし、男児の所在確認を先送りし続けた結果、男児は書類上からもいなくなってしまった。
事件をきっかけに、1年以上居場所がわからず就学実態の確認もできない「居所不明児童」が問題化。事件が発覚したのと同時期の昨年5月時点で、こうした児童は全国で976人にも上った。
ただ、今回の事件が契機となり、文部科学省の指導によって各自治体の調査が進み、今年5月時点では669人に減少している。
社会から、そして書類からも存在を消され、死んだ理由は分からず、遺体も見つからない男児。同じような境遇の居所不明児童の数が減っていることが、悲惨な事件のせめてもの救いかもしれない。
大阪?富田林の男児行方不明事件大阪府富田林市で平成14年に生まれた男児が、10年後の24年になって、生後間もなくから行方不明になっていたことが判明した。この事件以降、全国各地で就学実態すら確認できない「居所不明児童」の問題が表面化。自治体や教育委員会が確認作業に追われた。
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