少年時代の信長は天下のタワケモノとよばれた。子守りの老臣はバカさに呆れて切腹した。三十すぎて、海道随一と武名の高い今川を易々と打ち亡しても、ウチのバカ大将がなぜ勝ったかと家来どもが狐につままれた気持であった。
天下を平定して事実が証明したから、ウチの大将は本当に偉いらしいやと納得せざるを得なかったが、内心は半信半疑なのだ。
つまり信長の偉さはその時代には理解しがたいものであった。こんなのは珍しい。
信長とは骨の随からの合理主義者で単に理攻めに功をなした人であるが、時代にとっては彼ぐらい不合理に見える存在はなかったのだ。
時代と全然かけ離れた独創的な個性は珍しくないかも知れぬが、それが時代に圧しつぶされずに、時代の方を圧しつぶした例は珍しいようだ。理解せられざるままに時代を征服した。
信長に良い家来は少くないが、良い友達は一人もいない。多少ともカンタン相てらしたらしい友人的存在は斎藤道三と松永弾正という老いたる二匹のマムシであろう。
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