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小伜の釣り

もう、長男が十二、三歳になっていた。私が、亡き父に伴われては河原の陽ひに照らされていた年頃である。子供が次第に大きく育っていくのを見るのは、何事にもかえがたい。その子が、不出来であろうが、まずい顔をしていようが、まず息災そくさいにすくすくと伸びていくさまを見るほど、心安さはないのである。子供を育てるのは畢生ひっせいの大事業だ。そして、それに天恵の快興が伴う。
 わが父も幼き私を、楢林の若葉のかげに、末たのもしく見たのかも知れない。
 私の長男も、私と同じように釣りが好きのようである。かつて、この子が五、六歳の頃、私は奥利根川沼田地先の鷺石橋の下流へ、山女魚やまめ釣りに連れて行ったことがあるが、それから一度も川へ伴ったことがなかった。けれど、尋常小学校五、六年頃になると、母親の眼を隠れては近くの池や川へ行くようになった。裏の薮から、篠笹しのざさを切ってきて、それに母の裁縫道具の中から縫糸を持ち出して道糸をこしらえては、鈎を結んで出て行った。夕方帰ってくると、広い台所の隅へ生きている鮒や鯰を入れた兵庫樽を置いて、時々ながめては楽しんでいる。

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